建設・建築現場の残業は、現場での作業が長引くから起きている——多くの人がそう思っているのではないでしょうか。ところが、2026年5月28日にエニワン株式会社が公表した実態調査は、その思い込みを裏返します。残業の主因として最も多かったのは「現場作業」(22.0%)ではなく、「書類作成や帰社後のExcel入力といった事務作業」(32.7%)でした。残業経験者に限れば、約51.0%が事務作業を主因に挙げています。
この記事は、Excelの時短テクニックを並べる記事ではありません。そういう情報は当サイトにも数多くあります。ここで考えたいのは、もっと手前の問いです。なぜ「帰社後のExcel入力」が残業の一位になるのか。その残業が、労働時間や離職という、人と組織の問題にどうつながっているのか。Excelという道具の話に入る前に、まず「働く時間の問題」として、この調査を読み解いていきます。

調査が示した事実|残業の主因は現場ではなく事務作業だった
まず、エニワン株式会社の調査の前提を確認します。対象は、建設・建築・リフォーム業で過去にITツールを導入した経験のある300名。調査は2026年2月26日から27日に実施されました。すでにツールを使ったことのある層が対象である点は、後で効いてくるので覚えておいてください。
調査で明らかになった主な数字を整理します。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 残業の主因=事務作業 | 32.7% |
| 残業の主因=現場作業 | 22.0% |
| 残業経験者で事務作業を主因とした割合 | 約51.0% |
| 具体的な残業業務の1位=書類作成 | 39.6% |
| 帰社後の再入力(二度手間)を経験 | 49.4% |
| 事務作業の多さが離職意向の理由 | 20.3% |
| クラウド連携で負担軽減に期待 | 54.7% |
注目したいのは、事務作業(32.7%)が現場作業(22.0%)を10ポイント以上も上回っている点です。現場の仕事が終わったあとに、事務所へ戻って書類を作り、データを打ち込む。この「帰ってからの作業」こそが、残業時間を伸ばしている。調査はそう告げています。
「帰社後のExcel入力」が残業を生む二度手間の構造
ではなぜ、帰社後の入力作業がそれほど時間を食うのか。鍵になるのが「二度手間」という言葉です。調査では、約49.4%が「現場で記録した内容を、事務所に戻ってから再入力する」二度手間を経験していました。約半数です。
流れを想像してみてください。日中、現場で作業の内容や数量を紙やメモに書き留める。これが一度目の記録です。そして夕方、現場が終わって事務所に戻り、そのメモを見ながらExcelに打ち直す。これが二度目の入力です。同じ情報を、形を変えて二回書いている。この「二回目」が、本来なら帰宅できていたはずの時間に、まるごと乗っかってきます。
ここで大事なのは、二度手間が単なる「無駄な時間」ではない、という点です。日中に体を動かして疲れた状態で、夜に細かい数字を入力する。集中力は落ちているのに、ミスは許されない。だから余計に時間がかかり、確認にも神経を使う。労働時間の長さと、その時間の「質の悪さ」が、同時に積み重なっていきます。残業を労働時間の問題として見るとき、この「疲れた時間帯に正確さを求められる」構造は、見過ごせない負担です。
もう一つ見落とされがちなのが、二度手間が「残業の予定を立てにくくする」という点です。現場が長引けば、帰社して入力を始める時刻も後ろにずれます。そこから何件分のデータを打つかによって、退社時刻が読めない。毎日「今日は何時に帰れるか分からない」状態が続くことは、本人にとっても家族にとっても大きなストレスです。労働時間は、単に長いことだけでなく「読めないこと」が負担になります。帰社後のExcel入力は、まさにこの「読めない残業」を生み出す典型的な工程なのです。
さらに、書類作成が残業業務の1位(39.6%)に挙がっている点も合わせて見ると、構図がはっきりします。見積書・請求書・日報といった書類は、現場で得た同じ数字を、それぞれ別の様式に何度も書き写して作られます。一つの現場の情報が、メモ→Excel→各種書類と、形を変えながら三度も四度も入力される。残業の正体は「現場が長い」ことではなく、この「同じ情報を繰り返し書き写す」回数の多さにある、と言い換えられます。
残業を「時短テク」で語る前に見落とされている論点
こうした話題は、ともすれば「だからExcelを効率化しましょう」「関数で自動化しましょう」という結論に流れがちです。もちろんそれも一つの答えではあります。ですが、その前に立ち止まって見ておきたい論点が、いくつかあります。
論点1:労働時間規制という外圧
建設業では、時間外労働の上限規制が本格的に適用される段階に入っています。これまで「現場が終わるまで」「書類が片付くまで」と曖昧にされてきた残業が、制度として上限を持つようになりました。つまり、帰社後のExcel入力に費やしていた時間は、もう「気合いで吸収する」では済まなくなっています。残業を減らすことは、個人の頑張りの話ではなく、組織が守らなければならないルールの話に変わったのです。
この変化は、事務作業の重さを「見えない問題」のままにしておけなくなった、ということでもあります。これまでは、現場が終わってから誰かが残って入力すれば、表向きは仕事が回っていました。けれど上限規制のもとでは、その「誰かの残業」が制度的に許されなくなります。すると、二度手間で消えていた時間が、はじめて「減らさなければならないコスト」として表に出てきます。今回の調査が事務作業の比率を数字で示した意味は、まさにここにあります。曖昧に飲み込まれていた負担を、可視化したのです。
論点2:離職という人材の問題
調査では、事務作業の多さが離職意向の理由として20.3%にのぼりました。現場の仕事が好きで入った人が、「事務作業が多すぎる」という理由で辞めたいと感じている。これは深刻です。人手不足が叫ばれる業界で、入力作業の負担が人を流出させているとすれば、二度手間の解消は、単なる効率化ではなく「人が辞めない職場づくり」の問題になります。
論点3:負担軽減への期待は高い
一方で、調査対象の54.7%が「クラウド連携で負担が軽減される」と期待を寄せています。現場の人たち自身が、この二度手間を「なんとかしたい」と感じている。つまり、変える土壌はある。あとは、何から手をつけるか、です。
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建設業界の仕組みと労務管理 ~2024年問題 働き方改革・時間外労働上限規制への対応~(櫻井好美 著)
時間外労働の上限規制が建設業にどう及ぶのか、労務管理の視点から整理した一冊です。残業を「個人の頑張り」ではなく「組織が守るルール」として捉え直したい方に向いています。
二度手間の正体を分解する|どこに時間が消えているか
残業を労働時間の問題として捉えたうえで、では具体的にどこで時間が消えているのかを分解してみます。やみくもに「効率化」と言っても、どの工程が重いのかが見えていなければ手の打ちようがないからです。
| 工程 | 起きていること | 時間が消える理由 |
|---|---|---|
| 現場での記録 | 紙・メモ・写真で残す | 後で読み返す前提の「仮の記録」になりがち |
| 帰社後の再入力 | メモを見ながらExcelへ転記 | 疲労時に正確さを求められ、確認に時間 |
| 書類作成 | 見積書・請求書・日報を整える | 同じ数字を別の書式に何度も書き写す |
| 修正・差し戻し | 転記ミスの発見と直し | 入力が雑だと後工程で発覚し二重作業 |
こうして並べると、時間が消えているのは「入力そのもの」だけではないとわかります。むしろ「同じ情報を何度も書き写す」過程と、「疲れた状態での転記ミスを後から直す」過程に、見えにくい時間が溜まっています。残業を減らしたいなら、入力を速くするより前に、書き写しの回数そのものを減らす発想が要ります。
Before / Afterで見る現場の事務作業
二度手間を減らすと、現場の働き方はどう変わるのか。よくある一日の流れを、Before(今)とAfter(見直し後)で並べてみます。数字は調査結果から想像した一例で、職場によって幅はありますが、構造の変化を感じてもらうための比較です。
| 場面 | Before(今) | After(見直し後) |
|---|---|---|
| 現場での記録 | 紙やメモに走り書き | その場でデータとして残す |
| 帰社後 | メモを見ながらExcelへ再入力 | 集めたデータを確認・補正するだけ |
| 集計 | 電卓や手作業で並べ替え | 関数・ピボットで自動集計 |
| 書類作成 | 同じ数字を様式ごとに書き写す | 集計結果から半自動で展開 |
| 退社時刻 | 読めない(現場次第で深夜も) | 見通しが立つ |
注目してほしいのは、Afterで現場作業そのものが楽になっているわけではない点です。変わったのは「帰社後の時間の使い方」です。再入力に充てていた時間が、確認と補正に縮み、集計と書類作成が自動化される。現場の仕事は同じでも、そのあとに乗っかってくる事務作業の山が低くなる。残業が「現場の長さ」ではなく「書き写しの回数」で決まっているからこそ、回数を減らせば残業も減る、という関係がここに表れています。
そして、AfterのうちExcelが直接効くのは「集計」と「書類作成」の二行です。データを集める仕組み(現場での記録)はアプリやクラウドの役割ですが、集まったデータを意味のある形にまとめるのはExcelの仕事です。つまり、ツール導入とExcelスキルは、どちらか一方ではなく、組み合わせて初めて二度手間を崩せる関係にあります。
Excelスキルは「二度手間を減らす側」の道具になる
ここまで意図的にExcelの話を後回しにしてきました。残業を労働時間の問題として捉えるなら、最初に来るのは「制度」「人材」「業務の流れ」であって、Excelの技術はそのあとだからです。とはいえ、Excelスキルがこの問題の解決にまったく無関係かというと、そうではありません。むしろ「二度手間を減らす側」の道具として、確かな役割があります。
たとえば、現場で記録したデータを一度きちんとした形で受け取れれば、あとはExcel側で集計や書類への展開を半自動で回せます。ここで効いてくるのが、関数やテーブル、ピボットといった基礎スキルです。転記したデータを手作業で並べ替えたり、電卓で合計し直したりしている時間は、関数を使えれば消えます。逆に、これらの基礎がないと、せっかくクラウドで集めたデータも結局「Excelで手作業」に逆戻りします。
大事なのは順番です。まず業務の流れを見直して書き写しの回数を減らす。そのうえで、残った入力・集計の工程を、Excelスキルで軽くする。この順番を間違えて「とにかくExcelを速く」から入ると、二度手間の構造はそのままに、二度目の入力が少し速くなるだけで終わってしまいます。
具体的に、Excelスキルが効く場面を挙げてみます。たとえば現場ごとの数量データが一つのシートに集まっていれば、SUMIFSで現場別・項目別の合計を一発で出せます。これを電卓や手作業の並べ替えでやっていると、現場が増えるほど時間が膨らみます。日報から請求書へ数字を移す作業も、シート間の参照やXLOOKUPを使えば、転記ミスごと消すことができます。ピボットテーブルを使えば、集めたデータを切り口を変えて見るのも数クリックです。これらはどれも特別な技術ではなく、基礎として身につけておけば日々の入力時間を確実に削るものです。
逆に言えば、こうした基礎がないままだと、せっかく現場のデータをアプリやクラウドで集めても、最後の「集計して書類にする」工程でExcelの手作業に戻ってしまいます。データを集める仕組みを入れたのに残業が減らない、という職場は、たいていこの最後の工程でつまずいています。道具を入れることと、その道具から出てきたデータを扱えることは、別のスキルなのです。だからこそ、現場でツールを導入する前提として、Excelの集計スキルは「導入効果を取りこぼさないための土台」になります。
現場の事務負担を見直すためのチェックリスト
最後に、自分の職場の事務負担を点検するためのチェックリストを置いておきます。残業を「労働時間の問題」として捉え直す視点で作りました。建設・建築の現場に限らず、現場で記録して事務所で入力する業務全般に当てはまります。
- 同じ情報を二回以上書き写している工程はないか(現場メモ→Excel転記など)
- 残業の中身を「現場作業」と「事務作業」に分けて把握しているか
- 事務作業を理由に辞めたいと感じている人がいないか(離職意向のサイン)
- 時間外労働の上限を意識した業務設計になっているか
- 集めたデータを手作業で集計し直していないか(関数・ピボットで省ける部分)
このうち五つ目は、まさにExcelスキルが効く部分です。クラウドやアプリでデータを集めても、最後に「Excelで手集計」している限り、二度手間は完全には消えません。集計や書類展開を関数で組めるようになっておくことが、現場のデータを残業に変えないための、地味だけれど確実な備えになります。
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現場調査の合理化など、建設業の業務の流れそのものを見直す事例を扱った一冊です。Excelの手前にある「業務設計」から残業を減らしたい方に、考え方の土台を与えてくれます。
よくある質問
Q1. この調査は誰が、いつ実施したものですか
エニワン株式会社が、2026年2月26日~27日に実施した実態調査です。対象は建設・建築・リフォーム業で過去にITツール導入経験のある300名で、結果は2026年5月28日に公表されました。対象がすでにITツールを使ったことのある層である点は重要で、ツールを入れた現場でもなお事務作業による残業が残っている、という現実を示しています。
Q2. 残業の主因が現場作業ではないというのは本当ですか
はい。調査では残業の主因として「事務作業」が32.7%、「現場作業」が22.0%でした。残業経験者に限ると約51.0%が事務作業を主因に挙げています。現場作業より、書類作成や帰社後のExcel入力といった事務作業のほうが残業を生んでいる、という結果です。
Q3. 「二度手間」とは具体的に何を指しますか
現場で記録した内容を、事務所に戻ってからExcelなどに再入力することを指します。同じ情報を二回書いている状態です。調査では約49.4%がこの二度手間を経験していました。
Q4. なぜ二度手間が労働時間の問題になるのですか
帰社後の再入力は、日中の現場作業で疲れた時間帯に行われます。集中力が落ちた状態で正確さを求められるため、時間がかかり、ミスの確認や手直しにも神経を使います。労働時間の長さと質の両面で負担が増えるため、単なる作業の遅れ以上の問題になります。
Q5. 事務作業の負担は離職につながるのですか
調査では、事務作業の多さが離職意向の理由として20.3%にのぼりました。現場の仕事を志望して入った人が、事務作業の重さを理由に辞めたいと感じる実態があります。人手不足の業界では、負担軽減が人材定着に直結する課題といえます。
Q6. Excelの時短テクを覚えれば残業は減りますか
それだけでは不十分です。まず業務の流れを見直し、同じ情報を何度も書き写す「二度手間」の回数自体を減らすことが先です。そのうえで、残った入力・集計の工程をExcelの関数やピボットで軽くする、という順番が効果的です。順番を逆にすると、二度目の入力が少し速くなるだけで構造は変わりません。
Q7. Excelスキルはこの問題でどう役立ちますか
集めたデータを手作業で並べ替えたり合計し直したりしている時間を、関数やテーブル、ピボットで省けます。クラウドでデータを集めても、最後にExcelで手集計している限り二度手間は残ります。集計や書類展開を関数で組めることが、現場のデータを残業に変えないための備えになります。

まとめ — 残業は「現場の長さ」ではなく「書き写しの回数」で決まる
エニワン株式会社の調査は、建設・建築現場の残業の主因が、現場作業(22.0%)ではなく事務作業(32.7%)にあることを示しました。とりわけ「帰社後のExcel入力」という二度手間が、約半数の現場で時間を奪い、離職意向(20.3%)にまでつながっています。これは単なる効率の話ではなく、労働時間規制と人材定着という、組織の根幹に関わる問題です。
残業を減らす出発点は、Excelを速くすることではありません。まず「同じ情報を何度書き写しているか」を見直し、書き写しの回数そのものを減らすこと。そのうえで、残った入力と集計を、関数やピボットといったExcelスキルで軽くしていく。この順番でこそ、二度手間の構造は崩れていきます。現場のデータを残業に変えないために、確かなExcelスキルは「最後の砦」として効いてきます。
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